falと数学

有理数となる三角比

PDFファイルはこちら, 補題1,2の証明はこちら, 補題4の証明はこちら

問題

とても有名な大学入試問題がある.

問題(京都) tan?1°は有理数か.

問題文の簡潔さが有名であり,証明自体は背理法と加法定理を組み合わせることで証明できる.

この問題を一般化してみる.

問題A. cos?θ,?sin?θ,?tan?θが有理数となる条件をそれぞれ求めよ.

私はこの問題をまだ解けていないので,少し条件を追加した次の問題を,今回は解く.

問題B. 有理数pに対して,cos?pπ,?sin?pπ,?tan?pπが有理数となる条件をそれぞれ求めよ.

これは次のように言い換えても良い.

問題B. 有理数qに対して,cos?q°,?sin?q°,?tan?q°が有理数となる条件をそれぞれ求めよ.

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問題を解くための準備

以下の4つの補題を,後の証明で用いる.

補題1.チェビシェフ多項式 cos?kθcos?θの多項式として表せる.

とくに,cos?θ?=?xとおくとxの多項式Tk(x)を用いて cos?kθ?=?Tk(x)と表わせ,
Tk(x)?=?x(k?=?1),?2x2?−?1(k?=?2),?2xTk?−?1(x)?−?Tk?−?2(x)(k?≧?3)

補題2.チェビシェフ多項式の性質

  1. Tk(x)の次数はkで,最高次の係数は2k?−?1である.

  2. Tk(x)のすべての係数は整数である.

  3. T2k?−?1の定数項は0,?T2kの定数項は(?−?1)kである.

以上2つの証明は次の記事に載っている. http://falmath.starfree.jp/blogs/chebyshev.html

補題3. 自然数mnが互いに素ならば,? ma?=?nb?+?1を満たすような自然数a,?bが存在する.

[ 証明 ] まず,?m,?2m,??,?nmのそれぞれを nで割った余りがすべて異なることを示す.

余りが等しくなる2数sm,?tm(1?≦?s?<?t?≦?n)が 存在したとすると(t?−?s)mnの倍数. mnは互いに素なので,?(t?−?s)nの倍数,すなわちnで割り切れる. これは0?<?t?−?s?<?nに矛盾.

よって,?n個の数m,?2m,??,?nmのうち nで割った余りが1のものが唯一つあるので,それをamとすれば ma?=?nb?+?1を満たす.■

補題4. anx?+?an?−?1xn?−?1?+???+?a1x?+?a0?=?0?(各akは整数,?a0?≠?0) が有理数解q/pを持つ

panの約数かつ,?qa0の約数

証明は次の記事に載っている. http://falmath.starfree.jp/blogs/yurisukai.html

cos?pπが有理数となる必要十分条件

定理1.cos?pπが有理数となる必要十分条件 互いに素である自然数nと整数mに対し,以下の条件は同値.

  1. cos?m/nπ が有理数

  2. n?=?1,?2,?3

注意:普通,有理数といえば互いに素な整数a,?b(a?≠?0)に対しb/aと表せる数のことであるが, 分母を正に限定しても(分子を負にすれば負の数も表現できるので)問題ない.

[ 証明 ] (2)(1)を示す.
cos?mπ?=?(?−?1)m?<?br?>?cos?mπ/2?=?0?(mは2で割り切れない)?<?br?>?cos?mπ/3?=??±?1/2?(mは3で割り切れない)?<?br>
となりそれぞれ有理数である.

(1)(2)を示す.

補題1より,? cos?θが有理数cos?kθが有理数(kは自然数.)

これと補題3を用いることで,つぎの関係を得る.
cos?m/nπ?が有理数?⇒?cos?ma/nπ?が有理数?<?br?>??⇒?cos?nb?+?1/nπ?が有理数?<?br?>??⇒?cos?(bπ?+?π/n)?が有理数?<?br?>??⇒?(?−?1)bcos?π/n?が有理数
すなわち,仮定よりcos?π/nは有理数.

  1. n?≧?5である奇数のとき

Tn(cos?θ)?=?cos?nθと定めたので,
Tn(cos?π/n)?=?cos?(n???π/n)?=??−?1
また,補題2よりnが奇数のときはTn(x)は次のように表せる.
Tn(x)?=?2n?−?1xn?+?a1xn?−?1?+???+?an?−?1x?<?br?>?Tn(cos?π/n)?=?2n?−?1cosnπ/n?+?a1cosn?−?1π/n?+???+?an?−?1cos?π/n
したがって
2n?−?1cosnπ/n?+?a1cosn?−?1π/n?+???+?an?−?1cos?π/n?+?1?=?0
いま,仮定よりcos?π/nは有理数なので,方程式
2n?−?1xn?+?a1xn?−?1?+???+?an?−?1x?+?1?=?0
は(cos?π/nという)有理数解を持つ.補題4より,
cos?π/n?=??±?定数項の約数/最高次の係数の約数?=??±?1/2k??(k?=?0,?1,??,?n?−?1)
k?=?0のとき,?cos?π/n?=?1となる.すなわち,π/n2πの整数倍となればよいが, 場合分けの際の仮定よりn?≧?5であるため不適.

k?=?1,??,?n?−?1のとき,
cos?π/n?=?1/2k?≦?1/2
であるが,場合分けの際の仮定よりn?≧?5であるため,
cos?π/n?>?cos?π/3?=?1/2
より不適.

よって,n?≧?5である奇数のときは矛盾.

  • nが4の倍数のとき

    仮定より自然数lを用いてn?=?4lと表せる. cos?π/n?=?cos?π/4lが有理数と仮定すると, 補題1より$\cos (l\cdot \pi / n) = \cos \pi / 4 = 1 / \sqrt{2}$も有理数. これは矛盾.

  • nが10以上かつ,4で割ると2余るとき

    仮定より自然数lを用いてn?=?4l?+?6と表せる. cos?π/n?=?cos?π/4l?+?6が有理数と仮定すると, 補題1よりcos?(2???π/n)?=?cos?π/2l?+?3も有理数. これは先程示した(i)より矛盾.

  • n?=?6のとき

    $\cos \pi / n=\cos \pi / 6=\sqrt{3} / 2$より有理数でない.

  • 以上を合わせると, n= 5以上の奇数, 4の倍数 10以上の4で割ると2余る数 6 すなわち n?≧?4 のときにcos?π/nが無理数となることがわかった.

    n?=?1,?2,?3のときはすでに示したように有理数となる.

    したがって,?cos?m/nπ が有理数となるのはn?=?1,?2,?3のときのみ.■

    sin?pπが有理数となる必要十分条件

    定理2.sin?pπが有理数となる必要十分条件 互いに素である自然数nと整数mに対し,以下の条件は同値.

    1. sin?m/nπ が有理数

    2. n?=?1,?2,?6

    [ 証明 ] (2)(1)は計算すれば明らか.

    (1)(2)を示す.

    定理1より, 互いに素である自然数kと整数lに対し cos?l/kπが有理数となるのはk?=?1,?2,?3のときのみ.

    ここで,
    cos?l/kπ?=?sin?(l/kπ?+?π/2)?=?sin?2l?+?k/2kπ
    となるので,

    1. k?=?1のときsin?2l?+?k/2kπ?=?sin?2l?+?1/2π

    2. k?=?2のとき,lが奇数となることに気をつけると, sin?2l?+?k/2kπ?=?sin?l?+?1/2π?=?sin?mπmは整数) (仮定よりklは互いに素)

    3. k?=?3のときsin?2l?+?k/2kπ?=?sin?2l?+?3/6π このとき,lは3の倍数でないことから,2l?+?36は互いに素.

    すなわち,分母が1,2,6のときのみであることが得られる.■

    tan?pπが有理数となる必要十分条件

    定理3.tan?pπが有理数となる必要十分条件 互いに素である自然数nと整数mに対し,以下の条件は同値.

    1. tan?m/nπ が有理数

    2. n?=?1,?4

    [ 証明 ] (2)(1)は計算すれば明らか.

    (1)(2)を示す.


    tan?m/nπ?が有理数?⇒?tan2m/nπ?が有理数?<?br?>??⇒?1/tan2m/nπ?+?1?が有理数?<?br?>??⇒?cos2m/nπ?が有理数?<?br?>??⇒?1?+?cos?2m/nπ/2?が有理数?<?br?>??⇒?cos?2m/nπ?が有理数

    定理1より,? cos?2m/nπが有理数となるためには n?=?1,?2,?3,?4,?6である必要がある. n?=?4,?6のとき,約分することで分母がそれぞれ2,3になる.先程の定理では既約分数であることを仮定していたため,約分する必要がある.

    n?=?1,?2,?3,?4,?6のとき,tan?m/nπ が有理数になるかどうか確かめる.

    1. n?=?1のときtan?mπ?=?0

    2. n?=?2のとき,tan?m/2πmは2で割り切れない)は定義されない.

    3. n?=?3のとき,$\tan m / 3 \pi=\pm\sqrt{3}$mは3と互いに素)

    4. n?=?4のとき,tan?m/4π?=??±?1mは4と互いに素)

    5. n?=?6のとき,$\tan m / 6 \pi=\pm1 / \sqrt{3}$mは6と互いに素)

    となるので,有理数となるのはn?=?1,?4のみ.■

    まとめ

    最初の問題Bへの解答は次となる.

    問題B.の解答 有理数pに対して,cos?pπ,?sin?pπ,?tan?pπが有理数となる条件は,
    cos?pπ?が有理数?⇔?pを既約分数で表したとき,分母が1,2,3?<?br?>?sin?pπ?が有理数?⇔?pを既約分数で表したとき,分母が1,2,6?<?br?>?tan?pπ?が有理数?⇔?pを既約分数で表したとき,分母が1,4
    である.

    言い換えた問題Bに対しては,

    問題B.の解答 有理数qに対して,cos?q°,?sin?q°,?tan?q°が有理数となる条件は,整数nを用いて
    cos?q°?が有理数?⇔?q?=?60n,?90n?<?br?>?sin?q°?が有理数?⇔?q?=?90n,?180n?±?30?<?br?>?tan?q°?が有理数?⇔?q?=?45n
    である.

    これはすなわち,有名角とよばれる角の三角比にしか,有理数となるものがないことを述べている. また逆に,例えば3?:?4?:?5の直角三角形の鋭角が,無理数であることもわかる.

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